中原の雄・オーファン王国。
その名は、西部諸国はもちろんのこと、遠くオランにも広く知られている。
「英雄王」リジャール、「剣の姫」ジェニ、そして「偉大なる」カーウェス。
邪竜・クリシュを倒した3人の勇者が建国した新興の国だ。
特に、魔術師ギルドの導師見習という立場の私、ティア=マナリスにとって、勇者リジャールの活躍よりもカーウェス師のそれのほうをよく知っている。
魔術の奥義を使い、後にオーファン建国王となるリジャールを大いに助け、建国の後は魔術師ギルドの最高導師とオーファン宮廷魔術師の大役を兼任したことは、私だけでなく、すべての魔術師の誇りとも思えるのであった。
そんなオーファンの首都・ファンの町並みが、私にも見えてきた。
すでに、早まる鼓動を抑えることができなくなっていた。
すでに、早まる歩調を抑えることができなくなっていた。
そんな私の気持ちが伝わったのか、肩にとまっている私の使い魔・クックルも先ほどから落ち着きがなくなっていた。
私は、自分の気持ちの高ぶりを鎮めるために、先を急ぎたいのを抑えてその場に立ち止まり、クックルに向かって左手を差し出しながら語りかけた。
「クックル、どうしたの?」
クックルは、羽をばたばたさせながら、私の手に飛び乗った。私は、ちょうどクックルの顔が私の顔の前に来るように手を移動させながら、その手に右手も添えた。
クックルは、相変わらず羽をばたばたさせて、忙しなく咽を鳴らした。
「私は、大丈夫。急がなくたって、お母さんに会えるんだもん。」
私は、クックルを落ち着かせるために、わざとゆっくりと言った。それとともに、私もクックルのことをじっと見つめることで、気持ちの高ぶりを抑えようと努めた。
クックルは、はじめこそ落ち着きなく羽をばたつかせ、手の中であちらこちらと動き回り鳴きつづけていたが、しばらくすると次第に静かになっていった。
私はクックルを肩の上に戻すと、鎮まった気持ちを抑え込むようにゆっくりと歩を進め始めた。

私は今、タラントの山岳特殊部隊「スペシャル・マウンテン・サービス」、略してSMSの変形分隊長という立場にあった。
そんな私が、なぜファンに向かっているのか、疑問に持つものも少なくないだろう。たとえば私が逆の立場に立って見ていても、私はその人のことを不思議に思うだろう。
私が遠路はるばるファンまでやってきたその理由は、実は私の身内の事情にあった。
私がこの旅に出るきっかけとなったある人が、ここで生活しているということを、今まで苦楽をともにしてきた仲間、ティムとマグジーから聞いたからだ。
その話を聞いた瞬間、私の心が弾けそうなくらいにうれしく思ったものだ。あのとき私は、二人に何度もお礼を言った。それとともに、こみ上げる涙が止まらなくもなった。
今、母はファンにいるんだ。ファンに行けば母と会えるんだ。早く母に会いたい。会って母の胸の中で思い切り甘えたい。
そんな想いが、私の体のほとんどを支配しようとしていた。
しかし、次の瞬間、私は自分の立場を思い出し、戸惑った。まるで迷宮の中をさまよっているかのように。というのもは、そんな私の気持ちを縛るものがあったからだ。それがファンドリアからの侵攻を受けて大きな被害を出したタラントの復興事業と、SMSの分隊長という立場だった。
復興事業のほうは今まさに始まったばかりであるし、分隊長としても、前の戦いでタイデルへの使者として道中から一緒にいた部下 ――当時は、まだ「仲間」同士という間柄だったが――に対しての責任もあった。
しかし、結局最終的には母への思いのほうが勝っていったのは当然のことだろう。
ひとまずは復興事業に精を出す一方で、上官に1ヶ月間の暇をもらうことにした。
それが許可されると、上官に部下を託して、私は一人ファンに向かったのだった。

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